Cherry再編で何が起きているのか?メカニカルキーボード市場の「次の10年」を考える

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本記事は、XenoSpectrum様の下記エントリを拝読し、そこから着想を得て、筆者なりの視点でキーボード文化全体を整理したものです。

先日、ドイツに拠点を置く世界的キースイッチブランドである「Cherry」がドイツでのスイッチ生産を終了し、一部事業の売却も検討しているというニュースが流れました。

参考:名門Cherryの落日と再生:ドイツ生産終了、ゲーミング事業売却の可能性、そして「スイッチ戦争」の敗北が意味するもの

Cherryと言えば、現代におけるメカニカルキースイッチの「祖」とも言える存在であり、彼らの動きで「時代が変わった」と感じました。

この出来事は、一社の業績悪化というよりも、「キーボード」というプロダクトとその文化が、大きな転換点を迎えていることの象徴だと感じています。

この記事では、特定企業を持ち上げたり批判したりするのではなく、ひとりのキーボード好きとして、またメディア運営者というフラットな視点から、世界のキーボード文化にどんな変化が起きているのかを整理してみたいと思います。

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この記事の著者
Kawamura top R

GreenEchoes Studio代表
/Greenkeys編集長/WEBライター

河村亮介(カワムラリョウスケ)

取材・検証・撮影・計測・執筆を一貫して担当し、全コンテンツを制作。

編集の独立性と明確な開示を重視しています。

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Cherry再編の概要:ドイツ生産終了と事業見直しで何が変わるのか

Cherry1

Cherryといえば、Cherry MXスイッチを通じて、長年メカニカルキーボードの標準を形作ってきたブランドというのは、キーボード好きであれば周知の事実でしょう。

しかし現在、冒頭の紹介コンテンツからは、Cherry社を取り巻く環境が目まぐるしく変化していることがわかります。

Cherry社の現在

  • ドイツで続いてきたスイッチ生産ラインの終了
  • 中国や他地域への生産移管
  • ゲーミング周辺機器やデジタルヘルス部門などの一部事業の売却検討

これらの背景の根幹は、2014年のCherry MXスイッチの特許切れがあります。

現在では当たり前となったGateron,Kailh,OutemuなどのMX互換スイッチが高性能化し、事前潤滑(ファクトリールブ)をベースにしたスムーズな動作、心地よい打鍵感を追求した結果、Cherry自身の立ち位置との逆転現象が起きているように思います。

これだけを見ると「Cherryが弱くなった」と感じてしまいそうですが、これは成熟した産業に起こる自然な再編のひとつとも言えるのではないでしょうか。

どの分野でも「長く続いてきた定番」と「新しいプレイヤー」のバランスは変化していきます。

Cherryのニュースは、その変化がキーボードの世界でも本格化してきたことを示しているように思います。


メカニカルキーボードは「国産 vs 海外製」では語れない時代に

Cherry2

キーボードはしばしば「国産」や「海外製」といったラベルで語られますが、実際の中身は、国境をまたいだエコシステムで成り立っていることがほとんどです。

つまり、企業名は日本でも、実際の製造は海外OEMに委託しているケースのほうが多い、というのが現在の一般的な構造だと感じています。

一例を挙げると、下記のようなことがあります。

  • スイッチの開発・多様化は、中国・台湾のメーカーが中心
  • レイアウトやデザインの潮流は中国や欧米が強い
  • 生産拠点はアジア各地(主に中国や台湾)
  • 世界中のメディアや個人がレビューなどの情報を発信

こうして見てみると、「そのキーボードはどこの国の製品か」というよりも、世界中の技術・デザイン・工場・ユーザーコミュニティが混ざり合ってひとつのキーボード文化を形作っていると表現したほうが実態に近いと感じます。

Cherryの変化も、「ドイツのブランドが落ちた」という話ではなく、グローバルなエコシステムの中で、役割や構造が変わりつつあるという話として捉えたほうが、見えてくるものが多いのではないでしょうか。

こうした構造はキーボードに限った話ではなく、アメリカの衣料品や家電がアジア製造に依存していたり、ドイツの自動車部品の一部が東欧や中国・日本で生産されていたり、日本の家電や衣料の多くが海外工場で作られていることからも分かります。

「国内は高コスト、海外は量産向け」という役割分担は、多くの先進国が抱える共通の構図になっています。

これはキーボード産業においても例外ではないのです。


日本語配列キーボード市場は世界からはどう映るか

Cherry3

日本のキーボード市場は世界からどう映るのでしょうか。

Greenkeysの情報源が比較的日本の「外」にあるという特性上、海外の人脈に恵まれる機会を得ました。

そういった人々とのオンラインでの交流の中で気づいたのは、日本のキーボード市場はかなり「特殊」ということです。

キーボードは「言語文化を映し出す鏡」のような側面があり、そこを根幹にした「ガラパゴス現象」が日本には存在している、とも言えそうです。

日本市場のキーボードの特徴

  • 日本独自の「日本語配列」の存在
  • 大半のキーボードは日本語配列で英語配列(ANSI)は稀
  • 「言語切り替えスイッチ」の存在
  • 短いスペースバー
  • 非ラテン語をベースとした言語体系
  • ラテン語→非ラテン語を実現するための高度なIMEの発達
  • 頻回に切り替えられるIMEのオンオフ
  • オフィスワークでは静音性が求められる
  • オフィスではテンキーをもったフルサイズキーボードの存在感が大きい
  • 一方でデスク事情を考慮したコンパクト配列や自作キーボード圏内の分割キーボードの存在

これらの項目は、私が中国圏、アジア圏、ヨーロッパ圏のキーキャップ設計製造に携わる人たちから見た日本の「特殊な部分」です。

この「特殊」と捉えられいる部分の対比にあるのは「英語配列」であり、決して「日本が特別」という意味ではありません。

日本市場は「日本語」という言語をベースとした世界のキーボード地図の中に存在するひとつのローカルな条件セット

と考えたほうが、個人的にしっくりきます。

また、海外企業が日本語配列を用意しようとすると、「日本に合わせるため」の追加コストが発生します。

  • 配列ごとの設計・金型
  • 品質検査
  • ローカルパッケージ・マニュアル

近年では、「日本市場はまだ伸びる可能性がある」と考える企業が多く、日本語配列モデルに挑戦するブランドが増えてきました。

このことは、キーボード市場全体が「ANSIだけを見ていればよい時代」から、「ローカルニーズにもきちんと向き合う時代」へと移ってきているサインでもあり、「日本企業だから日本語配列が作れる」という前提が、すでに成り立たなくなっていることも示していると感じます。


HHKB と REALFORCE──日本発ブランドの立ち位置

Cherry4

日本発のブランドとして名前が挙がりやすいのが HHKB(株式会社PFU) と REALFORCE(東プレ株式会社) です。

この二つに関しては、私が関わる各国のキーボード関係者なら大抵は知っており、オンラインチャットの中にも「日本といえば」という文脈では必ずと言っていいほど出てくるワードといっても過言ではないでしょう。

静電容量無接点方式を軸にした打鍵感や、長時間の入力に耐えるための設計思想・堅牢性、いわゆるHHKBで言うところの「馬の鞍」の思想は、長年にわたって日本だけでなく世界中の多くのユーザーに支持されてきました。

この二社に関しては、現在に至るまで主力ラインナップのキーボードとキーキャップ・キースイッチの設計・製造を基本的に日本で行なっており※、パッケージにも「Made in JAPAN」と記載してある、日本のキーボード市場では稀有な存在と言えます。

ここではHHKBやREALFORCEを「日本の象徴」として見るのではなく、「世界のキーボード文化の中にある“ひとつのアプローチ”」として見ることが重要だと考えています。

この二社は

  • 静電容量無接点という方式を採用し続けてきたこと
  • タイピング体験や高耐久性を重視した設計を続けてきたこと
  • 国内生産を含めた「ものづくりのスタイル」を貫いてきたこと

といった複数の要素を組み合わせて、自分たちなりの答えを出してきました。

さらに近年では、HHKB Studio のように MX互換スイッチを採用したモデルも登場し、同じブランドの中で新しい方向性を試す動きも見られます。

これは、従来の製品を否定したり、どちらか一方に振り切ったりするという話ではなく、

「今まで大事にしてきたもの」を持ちながら、
「新しい選択肢」にも応えようとする複線化

として見ることができると思います。

同じキーボードという領域でも、ブランドごとにかなり違うアプローチを取っていることがよく分かります。

※本記事では、各社が公式に「Made in Japan」などと明記している現行製品群を前提に記載しています。

※従来のHHKB Professionalシリーズは、現在も「Made in Japan」を掲げて国内生産が続けられている一方で、新ラインの HHKB Studio は、PFU America主導で企画され、米・Huge Designと協力してデザインされたうえで、海外工場(中国)で量産されるグローバル前提のモデルになっています。


Cherry再編がキーボードユーザーとメーカーに投げかける問い

Cherry5

ここまで見てきたように、Cherryの再編・CherryMX互換のキースイッチブランドの台頭、世界的にも企画設計は国内・製造は海外OEMといった潮流は、すべて同じ大きな流れの中にある出来事だと感じています。

これらの事実は、私たちキーボードユーザーや、キースイッチ、キーキャップ、キーボードなど、キーボードに関わるすべての人や企業に対しての一つの問い掛けをしていると、筆者は感じています。

その問いは

「キーボード文化は、これから何を残し、何を変えていくのか?」

ということです。

  • 製造技術方式
  • 入力キーの独自性
  • 構造による打鍵感
  • 物理レイアウト
  • デザイン
  • 生産体制
  • 価格のレンジ
  • ユーザーコミュニティとの関わり方

どれをどこまで守り、どこから柔軟に変えていくのか。

その答えはひとつではなく、ブランドの数、コミュニティの数だけ存在してよいものだと思います。

Cherryの再編やキーボード業界の大きな変化は、製造と物流がグローバル化している現代だからこそ急速に起こっている過渡期の出来事となっており、「キーボードのこれからの10年」はもっと大きな変化を伴うものになると予想しています。

また、この流れには間違いなく「AI技術の発展」も関わってくるでしょう。

そもそも、このまま「言語入力」の精度が向上し続けることで、「キーボードという物理入力装置」自体の概念や立ち位置すらも変わってくる可能性すら秘めています。


Greenkeysとキーボード文化の「これから」

日本における「キーボード」という文脈において、Greenkeysというメディアはたった数年前に現れた「ポッと出」の存在です。

これまでの歴史を知っている先達からしてみたら、「何かそれらしいことを言っているノイズ」でしかないでしょう。

ただし、「歴史」というフィルターを介さずに「確実に今起こっている変化を観測できる」メディアです。

Cherryの再編も、日本市場のローカル事情も、ブランドごとの試行錯誤も、そのエコシステムの中で起きているひとつひとつの揺らぎです。

キーボード文化は、これからも変わり続けます。その変化を、悲観でも楽観でもなく、ただ丁寧に追いかけていくことがメディアとしての役割だと考えています。

その営みの先に、「次の10年のキーボード文化」が見えてくるのではないか──

そんな思いで、この文章を締めくくりたいと思います。

Greenkeysは成果型報酬広告のみで運営されており、Google広告はユーザービリティが低下するため使用していません。
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GreenKeys著者情報

河村 亮介のアバター 河村 亮介 Greenkeys運営責任者/GreenEchoes Studio代表

本サイトの記事はすべて筆者が取材・編集・執筆を行っています。
キーボードを100台以上所有・レビューし、国内外のメーカー・販売店への寄稿実績があります。また、自社運営のキーボード専門ショップ「Greenkeys Shop」を運営。
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