コラムです。
以前、海外のキーボードデザイナーと、好みのキーストロークについてやり取りをする機会がありました。
私が好むのは、おおむね2.8〜3.4mm程度。
MX互換スイッチかロープロファイルスイッチかという違いよりも、個人的にはこのストローク距離がしっくりきます。
KawamuraKailh choc v2のストローク距離は2.8mmが多いですね。
Cherry MX互換キースイッチでも浅い方が好きです。
いわゆる「スピードスイッチ」と呼ばれるものです。
その話をしているうちに、以前から何となく感じていたことが気になり始めました。
キーストロークの長さと、キーキャップの天面形状には、何らかの相性があるのではないか。
もう少し言えば、両者の間にあるのは「タイピングスタイル」ではないかと考えています。
今回は、この考えについて少し掘り下げてみます。
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「撫で打ち」はストロークの短さと関係している?
ノートパソコンのキーボードを打つとき、指先をほとんど持ち上げずに次のキーへ移動する方も多いのではないでしょうか。
指をキートップに触れさせたまま滑らせることもあれば、ほんの少し浮かせて、水平に近い軌道で移動することもあるでしょう。
ここでは、この両方を「撫で打ち」と定義したいと思います。
私が気になったのは、この指の動きとストローク距離の関係性です。
CHERRY MX互換キースイッチで標準的な「4.0mmストローク」のキースイッチを例にします。
隣り合うキーの初期位置が同じ高さだとして、一方を底まで押し込むと、押していないキーの天面との間には4.0mmの高低差ができます。
これが1.5mmストロークなら、高低差は1.5mmです。

もちろん、押し込んだキーから指を離し、十分に持ち上げてから隣へ移動するなら、この高低差はそのまま障害物になるわけではありません。
ただ、ストロークが短ければ、押し込んだ位置と元の位置との差は小さくなります。
指を大きく上下させなくても入力しやすい構造だとすれば、低い軌道で指を動かす、つまり「撫で打ち」タイピングスタイルとも相性が良いでしょう。
Kawamuraここでは「アクチュエーションポイント」は一旦考えないことにします。
前提条件としては、あくまでも「底打ち」状態で入力されることとします。
ここで気になるのが「キートップの形状」です。
仮にキートップがすごく深く窪んでいたとしましょう。
指を滑らせる方向によっては、窪みから一度上がって、次のキーへ移る必要があります。
一方で、キートップがフラットなら、横にそのままスライドすることもできます。
昨今のラップトップPCに使われるスイッチ構造は、ストローク距離が極めて浅いシザー式のものを採用しているケースが多く、キートップ形状はほとんどがフラットです。
このように、短いストロークとフラットなキートップが組み合わされやすいのは、単に見た目や薄さの問題だけではないのかもしれません。
キートップの3形状を指の移動方向から考える
以前、PFUの「HHKB Life」に寄稿した記事で、キーキャップの形状を解説しました。
そこでも紹介したように、キートップの天面は、大きくフラット、シリンドリカル、スフェリカルの3種類に分けられます。

フラット型は、Appleのキーボードなどでおなじみの平らな形状。指先をどの方向へ動かしても、天面そのものの凹凸に妨げられにくいのが特徴です。
シリンドリカル型は、Cherryプロファイルに代表される形状。主に左右方向へ湾曲しているのが特徴です。
スフェリカル型は、SAプロファイルなどで知られる形状。前後左右の両方向に窪みがあり、指先が中央へ収まるような感覚があります。
指先の「定位感覚」でいうと、フラットほど定まりにくく、スフェリカルほど定位しやすい。
シリンドリカルは中間的な性質を持っています。
一方で、スフェリカルに関しても、窪みが浅ければ指先の定位感覚と撫で打ちを両立できる可能性があります。
しかし、キースイッチのストローク次第ではその限りではない可能性があると、私は考えています。
短いストロークにはフラット、長いストロークにはスフェリカル?
個人的な感覚としては、ストローク距離とキートップ形状には、「適合性がある」を考えています。

ストロークが短ければ、指先を低い位置で移動させる撫で打ちとの相性がよく、フラット型の利点が生きる。
ストロークが長くなれば、指先を持ち上げ、次のキーへ着地するような動きも増える。
その場合、中央に窪みのあるスフェリカル型が、指先の位置を知る手掛かりになる。
シリンドリカル形状に関しては、少なくともオリジナルCherryを踏襲したものであれば湾曲もそれほど深くないため、比較的どのようなストローク距離でも問題ない、というのが個人的な感覚です。
Kawamuraこういった背景もあって、使うキーキャップはシリンドリカル形状が多いです。
一方で、深くコトコトした打鍵音であればSAやMT3、KATなどの背が高くスフェルカル形状のものが好きです。
意外と背が高くてフラット形状・シリンドリカル形状のキーキャップがないのが面白いところ。
打鍵音まで考えるともう沼すぎるのでここはちょっと考えないことにします。
こう考えると、3つの形状を短ストロークから長ストロークへ、フラット→シリンドリカル→スフェリカルの順に並べることができます。

もちろん、これは各形状の優劣を表したものではありません。
実際のタイピングでは指を滑らせる動きと持ち上げる動きが混在しますし、ストロークだけで打ち方が決まるわけでもないでしょう。
それでも、キートップは「キーを押す面」であると同時に、「次のキーへ移動する際に触れる面」でもある、という捉え方には意味があるように感じています。
ただし、ストローク距離が短ければフラットが適している、とは言いたくありません。
個人的は、フラット形状よりもある程度指先に識別感覚のあるキートップ形状の方が好きですね。
先人の思想を機器の形状から読んでみる
この考えをベースにタイプライターやラップトップPCを見ると、ちょっと面白い。
古いタイプライターには、円形で縁が盛り上がったキートップが多く見られます。

文字を打つ動作、つまり1回のストロークは、現代の入力操作と比較すると深かったのではないでしょうか。
そのストローク距離では、撫で打ちという概念すらなく、キーを正確に捉えて、上から下に打つ、という動きが多く、それに合わせてキートップが「真上からの力を逃しにくい形状」になっている可能性もあります。
一方、ノートパソコンでは、筐体を薄くするために薄型のスイッチ機構が使われ、短いストロークと平らなキートップの組み合わせが広まりました。
これはちょっと迷うところで、きっと折りたたみ形状とすることで、画面とキートップが接してしまうが故にキートップをフラットにする必要があったというだけで、撫で打ちがしやすいようにキートップ形状がフラットになったわけではなさそうな印象です。
ただ、結果として、撫で打ちスタイルが誕生したのはおそらくはこの薄型化とキートップ形状の平坦化の組み合わせが理由でしょう。
キーボードの構造が打ち方を変え、その打ち方が次の製品設計へ反映される。そんな関係があっても不思議ではありません。
まとめ|キートップ形状とストローク距離を考えるとちょっと面白い
以上、キートップ形状とキーストロークの関係性についてのコラムでした。
ほんとにこの辺りは複合的な要素が絡み合っている部分で、ここにさらに「形状による打鍵音の変化」や「リニア/タクタイルなどのスイッチ特性」「アクチュエーションポイント」「物理配列(ロウスタッガード/カラムスタッガード/オーソリニア)」「キーボード自体のサイズ」なども入ってきそうです。
このあたりはどう考えても自由ですし、「タイピング思想」的な部分もきっと大きいでしょう。
ただ、こうした思想に基づいたキースイッチ選定・キーキャップ開発があると、さらに面白くなるのかもしれません。
あなたはどんなキーキャップとキースイッチストロークが好みですか?
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