なぜZOZOのエンジニアはHHKBの服を作ったのか——コラボ第2弾に込めた思いを聞く

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この記事の位置づけ
本記事は、キーボード市場や製品動向についての筆者見解を含むコラム記事です。事実関係の確認に努めつつ、分析や評価には筆者の視点が含まれます。レビューやニュースとは異なる、意見性のあるコンテンツとしてご覧ください。

キーボード×アパレルコラボに込められた思いとは。

2026年9月16日、HHKBとZOZOTOWNのコラボ第二弾となる「HHKB誕生30周年記念の限定アイテム」の受注販売がZOZOTOWNで開始となりました。

キーボードとファッション。

一見すると意外にも思える組み合わせですが、今回の企画をひも解くと、その間にはHHKBへの思いを持ったZOZOのエンジニアたちがいたことがわかります。

「多くのHHKBファンの方に、キーボードにこだわるように、ファッションも楽しんでいただけたら」

その企画の核を、株式会社ZOZO 技術戦略部の諸星一行氏はこのように語ります。

今回の企画は、ZOZOでも稀だという、開発部門のエンジニアによる商品企画提案を起点として進められました。

エンジニア目線でデザイナーや商品担当者と協働しながら、アイディアをどのようにファッションへ落とし込んでいったのか。

本記事の執筆にあたり、企画を担当した諸星氏、コードを考案したエンジニア、グラフィックを手がけたデザイナーから、企画に込めた思いを伺いました。

この記事では商品の仕様を紹介するだけでなく、「なぜZOZOのエンジニアがHHKBの服を作ったのか」にフォーカスしていきます。

利害の明示

本記事で紹介する商品は、株式会社ZOZOより無償提供を受けています。本記事の制作費・掲載料は受領しておらず、収益化リンクも含まれていません。記事内容はGreenkeysが独自に構成・執筆しています。

HHKBの30周年を記念した、4つのコラボレーションアイテム

HHKBコラボ企画第二弾として販売されるのは、スウェット、Tシャツ2型、トートバッグの全4型。

いずれもZOZOTOWN限定の受注販売です。

商品名カラー価格(税込)
HAPPY CODING SWEATWHITE / BLACK8,800円
RETRO FUTURE graphic TEEBLACK6,600円
OLD LOGO TEE – 30th EDITIONWHITE / BLACK5,500円
OLD LOGO TOTE BAG – 30th EDITIONGRAY4,400円
  • 受注期間:2026年9月16日(水)正午~10月7日(水)11時59分
  • お届け予定:2026年12月下旬
  • 販売:ZOZOTOWN限定
  • 購入特典:1商品につきオリジナルステッカー3枚

HHKBコラボグッズ第二弾|ZOZOTOWN

今回提供いただいたのは、HAPPY CODING SWEATのWHITE(Lサイズ)、RETRO FUTURE graphic TEE(Lサイズ)、OLD LOGO TEE – 30th EDITIONのBLACK(Lサイズ)、OLD LOGO TOTE BAG – 30th EDITIONです。

掲載している商品は「サンプル」となっており、実際にお届けする商品には30周年記念のネームタグがついています。

「キーボードにこだわるように、ファッションも楽しんでほしい」

HHKBとZOZOTOWNのコラボレーションは、今回は2回目。

Greenkeysでは、第1回目の「HHKB Meetup Vol.9」コンテンツ内で取り上げていました。

第2弾の企画に込めた思いについて、ZOZO 技術戦略部ディレクターであり、HHKBエバンジェリストでもある諸星一行氏は次のように語ります。

昨年秋に続きHHKBとZOZOTOWNのコラボレーション第2弾を実現することができ、大変うれしく思っております。

今回のアイテムは、入力の「質」を追求し続けてきたHHKBの姿勢への敬意を込めて制作しました。

30年の歩みと打鍵の心地よさをグラフィックに落とし込み、当社フロントエンドのテックリードエンジニアらが書いたコードもあしらっています。

HHKBのユーザーは、毎日触れる入力道具にこだわりを持つ人たちです。

配列、打鍵感、キーの重さ、筐体の大きさ。

自分にとって心地よい入力環境を求め、一台のキーボードを長く使い続ける人も少なくありません。

一方で、ZOZOはただの「ファッション企業」ではないことが、企業サイトからも読み取れます。

同社の事業の中心にあるのは、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」をはじめとするオンラインサービス。

ZOZOは、ZOZOTOWNの新機能やUI/UX、EC基盤、業務システム、データ・AIなどを担う開発組織を自社に置き、公式の採用サイトでも自らを「ファッションテックカンパニー」と表現しています。

つまりZOZOは、ファッションを扱う企業であると同時に、巨大なECプラットフォームを自ら開発・運営するテクノロジー企業でもあるのです。

ZOZOの開発部門には、フロントエンドエンジニアやバックエンドエンジニア、モバイルエンジニア、SRE、機械学習・データ領域のエンジニアなど、さまざまな技術職が所属しています。

そう考えると、HHKBとZOZOの組み合わせは、見た目ほど意外なものではないのかもしれません。

HHKBは、プログラマーをはじめ、日々多くの文字を入力する人たちから支持されてきたキーボードです。

そしてZOZOには、そのHHKBを仕事道具として身近に感じられるエンジニアと、アイデアをファッションへ落とし込めるデザイナーや商品担当者が、同じ会社の中にいます。

今回のコラボレーションは、HHKBの「テクノロジー」とZOZOの「ファッション」という、離れた二つの領域を外から結び付けたものではなく、ZOZOがもともと社内に持っていた「ファッションとテクノロジーの接点」から生まれた企画だったと見ることができます。

通常は商品企画をしないエンジニアが、企画の起点に

今回の背景を知るうえで重要なのが、企画を提案した部門です。

諸星氏によれば、ZOZOで開発部門のスタッフが商品企画を提案することは、通常はほとんどないといいます。

通常、当社では開発部門のスタッフ(エンジニア)が商品企画提案することは稀ですので、それぞれの過程でデザイナーや商品担当者など、たくさんの周囲の協力を得ました。ZOZOらしく協働するカルチャーに支えられて、ここまで実現することができたのだと思います。

ここが、今回のコラボレーションを単なるブランド同士のタイアップとは異なるものにしています。

ZOZOにはHHKBを愛用するエンジニアも所属しており、その様子はHHKB Lifeの「ファッションにも仕事環境にもこだわりを!~ZOZOエンジニアたちもほれ込むHHKBの魅力~」でも紹介されています。

つまり今回の企画の核には、HHKBを身近な仕事道具として捉えるエンジニアならではの視点があったといえるでしょう。

このように、今回の企画は、エンジニアを起点としてはじまり、異なる専門性を持つ人たちがアイデアを受け渡しながら、形になったものなのです。

コラボ4アイテムに込められた「想い」を読み解く

今回、インタビューの中で、それぞれのデザイン企画者からのコメントをいただくことができました。

実際の商品と合わせて、そのアイテムに込められた「想い」をみていきましょう。

キーボードを描かずに打鍵感を服へ落とし込む

エンジニアとデザイナーの協働を最も象徴しているのが、「HAPPY CODING SWEAT」です。

ZOZO HHKB 12
実際にお届けする商品には30周年記念のネームタグがついています。

正面には、赤から青へと変化する縦長のグラフィックと、TypeScriptで書かれたコードが配置されています。

しかし、そこにキーボードそのものの姿はありません。

デザインを担当したZOZOの江森萌々子氏は、あえてキーボードを直接描かなかった理由を次のように説明します。

キーボードブランドとのコラボアパレルでありながら、あえてキーボードそのものをモチーフとして登場させない、第2弾らしい挑戦的なデザインを目指しました。

癖になる打鍵感から生まれるタイピングのリズムや熱量、HHKBのミニマムさをグラフィックとして表現しています。

ファッションとして楽しめるデザインでありながら、コードを読み解くと新たな発見がある。そんな、着る人同士で思わず語り合いたくなるような一着になればうれしいです。

Report 013

ファングッズとして分かりやすくするなら、HHKB本体やキーキャップを大きく描く方法もあったはずです。

しかしHAPPY CODING SWEATでは、打鍵によって生まれるリズムや指先の熱量を抽象的なグラフィックへ置き換えました。

そのため、HHKBを知らない人には一枚のグラフィックウェアとして見えます。

一方で背景を知る人には、打鍵している指先や、キーを押すたびに生まれる感覚まで想像できるデザインになっています。

「HHKBの服」であることを一目で説明するのではなく、着る人や見る人が意味を発見できる余白を残す。

これも、ファッションとして楽しんでもらうための工夫なのでしょう。


グラフィックの下に記されたTypeScriptも、エンジニアらしさを演出するためだけの装飾ではありません。

コードの考案に携わったZOZO フロントエンジニアの平舘宏大氏は、デザインを見たときの印象をこう振り返ります。

今回のコラボアイテムのためにデザインされた美しいグラフィックに添えるのにふさわしい、美しいコードが必要でした。

グラフィック自体がこのコードを必要としているように、私には見えました。

キーボードで文字を打つことの楽しさ、文字を打つことによって導き出されるよろこび。

それを表現したつもりです。

デザイナーが生み出したグラフィックを見たエンジニアが、そこにふさわしいコードを書こうと考えた。

この言葉からは、エンジニアとデザイナーの仕事が一枚の服の中で重なっていった過程が見えます。

Report 012

実際に書かれているコードはこちら。

type NaturalList<
 T extends readonly string[],
  CommaBeforeAnd extends "" | "," = ""
> =
  T extends [infer U extends string]
    ? U
    : T extends [
        infer A extends string,
        infer B extends string
      ]
      ? `${A}${CommaBeforeAnd} and ${B}`
      : T extends [
          infer Head extends string,
          ...infer Rest extends string[]
        ]
        ? `${Head}, ${NaturalList<Rest, ",">}`
        : never;

type KeyboardBridge<
  HumanAspects extends string[],
  WorldFacets extends string[]
> =
  `A keyboard is the physical bridge that \
connects a human's ${NaturalList<HumanAspects>} \
to the digital world of ${NaturalList<WorldFacets>}.`;

type BeliefOfHHKB = KeyboardBridge<
  ["body", "mind"],
  ["creation", "progress", "innovation"]
>;

この型を展開すると、最終的に次の英文が組み上がります。

A keyboard is the physical bridge that connects a human’s body and mind to the digital world of creation, progress, and innovation.

日本語に意訳すると、「キーボードは、人間の身体と精神を、創造・進歩・革新というデジタル世界へつなぐ物理的な橋である」という意味です。

この一文は、HHKB米国サイトに掲載されている和田英一氏の思想をもとにしています。

コードを考案した同社フロントエンドエンジニア(テックリード)の冨川宗太郎氏は、あえてTypeScriptの型システムを使い、少し読み解きにくいコードにした理由を次のように語ります。

ちょっと読みづらいけど読めなくはない、そんなソースコードが書いてあったら読み解こうとしてしまうのがエンジニアあるいは“ハッカー”の性です。

またTypeScriptは他の言語では表現できないことも型だけで表現できてしまいます。

この2つを組み合わせたらみんながちょっとハッピーになる気がしました。

コードを知らない人には、赤い文字列がグラフィックの一部として見える。

一方、エンジニアはその意味が気になり、思わず読み解きたくなる。

そしてコードの先には、HHKBが大切にしてきたキーボード観が置かれている。

エンジニアの遊び心を、ファッションとして成立する形へ変換したものといえるでしょう。

1996年のHHKBを、2026年のファッションとして再構成する

エンジニアとデザイナーの協働は、HAPPY CODING SWEATだけに表れているわけではありません。

「RETRO FUTURE graphic TEE」では、1996年に発売された初代HHKBが大胆に取り入れられています。

ZOZO HHKB 04
実際にお届けする商品には30周年記念のネームタグがついています。
ZOZO HHKB 03

江森氏によると、第2弾では30周年という節目ならではのメッセージ性と特別感を意識したといいます。

たとえばRETRO FUTURE graphic TEEでは、1996年に発売された「HHKB」のファーストモデルを大胆にグラフィックとして取り入れたり、HHKBが誕生した「1996」と30周年を迎える「2026」をデザインに落とし込んだりと、30年の積み重ねをさまざまな形で表現しています。

また、近年のファッショントレンドである90年代リバイバルを意識し、当時の古着を思わせるグラフィックを取り入れています。

HHKBが誕生した1996年の空気感を、2026年のファッションとして楽しめる、30周年ならではのデザインになっているのではないかと思います。

HHKBの歴史を懐かしむだけではなく、30年前の製品と空気感を、現在のファッションとして着られる形へ再構成する。

「1996」と「2026」をつなぐデザインには、30周年記念であることと、今の服として楽しむことの両方が込められています。

ZOZO HHKB 02
Report 003

30周年をよりストレートに楽しめる2アイテム

「OLD LOGO TEE – 30th EDITION」と「OLD LOGO TOTE BAG – 30th EDITION」は、HHKBのロゴと30周年の記念性を、よりストレートに楽しめるアイテムです。

HAPPY CODING SWEATが意味を読み解いていくデザインであるのに対し、OLD LOGO TEEはHHKBファンであることを素直に表現できる一着です。

トートバッグは、片面に30周年を示すロゴ、もう片面に「Happy Hacking」の文字が入り、持つ向きによって異なる表情を楽しめます。

ウェアよりも気軽に取り入れやすく、普段の服装を変えずに今回のコラボレーションを楽しみたい人にも選びやすそうです。

実物を見て感じた「ファングッズ」と「普段着」の距離

個人的にも、「キーボード沼デビュー」はHHKBだったということもあり、今回のコラボアイテムはHHKBファンにとって、所有する喜びを感じやすいコレクションに仕上がっていると感じました。

「コラボアイテム」というと、やはり「ファンしか楽しめないコテコテのもの」という印象を持つ方もいらっしゃるように思いますが、今回のコラボアイテムに関しては、「ファングッズであることを忘れるくらい自然に着られる」という印象でした。

キーボードが直接プリントされているTシャツも、まさに「90年代の古着を思わせるグラフィック」として自然に着られますし、スウェットに関しては「自分とHHKBファンのみが知る」秘密を公然と共有できるような、ワクワク感さえありました。

まとめ

以上、HHKBとZOZOの第二弾アイテムに込められた「想い」に迫るインタビューコンテンツをお送りしてきました。

こうして企画の背景をたどると、HHKBとZOZOTOWNの組み合わせは、決して表面的な異業種コラボではなかったことが分かります。

ZOZOは、ファッションを扱う企業であると同時に、自社で巨大なECプラットフォームを開発・運営するファッションテック企業です。

その社内には、HHKBを仕事道具として身近に感じるエンジニアと、アイデアをファッションへ変換するデザイナーや商品担当者がいます。

今回のコラボレーションは、ZOZOがもともと内包していた「ファッション」と「テクノロジー」の接点から生まれた企画だったといえるでしょう。


最後に、諸星氏はHHKBファンへ次のように呼びかけています。

ぜひ、多くのHHKBファンの方に、キーボードにこだわるように、ファッションも楽しんでいただけたら幸いです。

HHKBを選ぶとき、私たちは機能だけでなく、打鍵感や思想、道具としての佇まいにも惹かれています。

今回の4アイテムは、そのこだわりを服へ持ち出すための提案です。

HHKBの30年を記念しながら、過去のロゴを並べるだけではなく、エンジニアの遊び心とデザイナーの表現を通して、2026年のファッションへ落とし込む。

そこに、HHKBとZOZOTOWNによる第2弾コラボレーションの面白さがあるのではないでしょうか。

受注期間は2026年10月7日(水)11時59分まで。商品の到着は2026年12月下旬が予定されています。

HHKBコラボグッズ第二弾|ZOZOTOWN


  • 初回公開日:
  • 最終更新日:
  • 取材方法:提供品の実物確認、株式会社ZOZOへの書面取材、公式発表資料の確認
  • 参照・引用元:株式会社ZOZO、株式会社PR TIMES、HHKB公式サイトなど
  • 利益相反:商品提供:あり 本稿収益化リンク:なし

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河村 亮介のアバター 河村 亮介 Greenkeys chief editor

日本のキーボード専門メディア「Greenkeys」編集長。GreenEchoes Studio代表。

メカニカルキーボード、自作キーボード、入力デバイスに関するレビュー・取材・検証・撮影・執筆を担当しています。これまで100製品以上をレビューし、日本語配列キーボードの互換性問題や国内市場動向についても継続的に情報発信しています。

日本語配列キーボードの互換性向上を目的とした業界連携プロジェクト「Japan Layout Alliance(JLA)」を設立し、国内外メーカーと協力した活動も行っています。

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