「日本風デザイン」は日本市場向けとは限らない|海外キーボードブランドに伝えたいひとつの視点

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コラム
この記事の位置づけ
本記事は、キーボード市場や製品動向についての筆者見解を含むコラム記事です。事実関係の確認に努めつつ、分析や評価には筆者の視点が含まれます。レビューやニュースとは異なる、意見性のあるコンテンツとしてご覧ください。

この記事は、日本市場全体を代表する意見ではありません。Greenkeysを運営する河村亮介が、海外キーボードブランドとのやり取りや国内ユーザーの反応を見てきたなかで感じている、ひとつの視点をまとめたものです。このコンテンツは主に海外文脈から日本のキーボードマーケットの嗜好性を理解することを支援するために制作しています。

日本は、アニメ、ゲーム、漫画、伝統文化など、いわゆる「ジャパニーズカルチャー」の発信地として見られることが多い国です。

特にこれは、海外キーボード・キーキャップブランドでよくフィーチャーされる傾向があるように思います。

桜、富士山、侍、忍者、芸者、東京の街並み、アニメやレトロゲームなどのエッセンスを取り入れたものも多く存在します。

また、日本語のひらがなやカタカナ、漢字といった要素は海外から見ると「クール」に見えるようですね。

これらのデザインは、海外のユーザーにとっては「Japanese aesthetic(日本的な美的要素)」として魅力的に映ることがあります。

確かに、海外文脈から見た「日本」は、私たち日本人が海外のイメージを観光地や建造物、文化で連想するのと同じように、より分かりやすい象徴的なものをイメージすると考えれば、雷門や芸者といったものがモチーフとなった商品が多くなることは不思議ではありません。

しかし、それらのデザインがそのまま日本市場で広く好まれるかというと、少し慎重に考える必要があるように思います。

日本文化をモチーフにしたデザインと、日本のユーザーが日常的に使いたいと思うデザインは、必ずしも同じではないと私は考えます。

この記事では、海外キーボードブランドが日本市場向けの商品企画を考える際に知っておきたい、「Japanese-inspired」と「日本市場向け」の違いについて整理していきましょう。


タップできる目次

海外から見た「日本らしさ」は「日本人が感じる日本らしさ」ではない

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海外から見た「日本らしさ」は、日本人が感じるものとは大きく異なります。

それはあくまでも海外から見た「代表的な日本」であり、日本人がそれを日常的に好むとは限らないのです。

これはキーボードやキーキャップに限った話ではありませんが、特にデザイン性が重視されるキーキャップ市場では、このズレが見えやすくなります。

海外では「日本らしさ」がアイコンになる

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海外のユーザーにとって、ひらがな、カタカナ、漢字、桜、富士山、侍、忍者、芸者、東京といった要素は、わかりやすい日本のアイコンです。

そのため、海外ブランドが「日本らしいデザイン」を考えるとき、こうしたモチーフを取り入れるのは自然でしょう。

実際、海外のキーキャップ市場では、日本語のサブレジェンドが好まれる傾向にあったり、桜、東京、アニメ、ゲームといったものがモチーフになったものも多く存在します。

これらはグローバル市場において、ひとつのデザインジャンルとして成立しているほどです。

日本文化は海外で強いブランド性を持っており、「Japanese-inspired design」は十分に魅力的なテーマになり得ます。

「日本を意識したデザイン」は日本人に好まれるとは限らない

一方で、日本国内のユーザーにとって、それらのモチーフは「対外的に見た日本」であって普段の生活の中で意識されているものではないという点は理解する必要があります。

たとえば、ひらがなやカタカナは日本人にとって日常的な文字です。

海外ユーザーにとってはグラフィックとして魅力的に見えるかもしれませんが、日本人にとっては普段から目にしている文字であり、それだけで特別な価値になるとは限りません。

つまり、「普通過ぎて取り上げること自体が不思議」という感覚なのです。

また、富士山、侍、忍者、芸者といったモチーフは、あくまでも「海外から見た日本」であって、日本人にとってはそれらは「数ある日本の有名なものの中で特に海外の人に好まれている」というだけの認識に過ぎません。

つまり、特別ではなく、あくまでも並列的に存在するものの一つなのです。

もちろん、これらの要素を使ったデザインが悪いわけではありません。

ただし、それをそのまま「日本市場向け」と考えると、日本のユーザーの感覚とはずれてしまう可能性があります。


“Japanese-inspired”と“日本市場向け”は同じではない

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ここで重要なのは、“Japanese-inspired design”と“designed for the Japanese market”は別物であるという点です。

日本文化にインスパイアされたデザインは、グローバル市場では成立しやすいテーマです。

しかし、日本市場向けの商品企画では、それとは異なる視点が求められます。

日本文化モチーフはグローバル向けには成立しやすい

桜、侍、忍者、富士山、東京、アニメ、ゲーム、日本語レジェンドといった要素は、海外ユーザーにとって強い魅力を持つ場合があります。

それは、日本文化が海外で「かっこいい」「かわいい」「独自性がある」と受け取られているからです。

この意味で、日本文化をテーマにしたキーキャップやキーボードは、グローバル向け商品としては十分に成立します。

むしろ、日本文化を好む海外ユーザーに向けた商品としては、強い訴求力を持つこともあります。

日本市場向けに必要なのは使用体験のローカライズ

確かに、特定のアニメや漫画、ゲームの熱狂的なファンにとっては、それらをモチーフにしたキーボードやキーキャップは強烈に刺さるでしょう。

ただし、日本では、アニメやゲームといった強い趣味性を仕事用のデスクやオフィス環境に持ち込みにくいと感じる人も少なくないでしょう。

そのため、熱心なファンに刺さるデザインと、日常的に使いやすいデザインは分けて考える必要があります。

こうした日本特有の事情なども踏まえると、日本市場向けの商品に必要なのは、文化モチーフそのものではなく、日本の趣味嗜好に見合ったローカライズなのではないかと、私は考えています。

恐らく、日本のユーザーが求めているのは、日常のデスクに自然に馴染み、使っていて違和感がなくてかつ、おしゃれという部分ではないでしょうか。

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一概には言えませんが、筆者の最近の感覚では「ミニマル」「機能的でかつ美的」などのLess, but betterの文脈、つまりApple製品にも通じるディーターラムス的なデザイン思想が好まれる印象です。

つまり、日本市場向けの商品企画では、「日本っぽく見えるか」よりも、「日本のユーザーが自然に使えるか」が重要になりそうです。


日本文化モチーフが有効な場合もある

ここまで、日本風デザインと日本市場向けは別物だと述べてきました。

ただし、日本文化モチーフそのものが悪いわけではありません。

桜、和柄、東京、アニメ、ゲーム、侍、忍者といった要素は、グローバル市場では強い魅力を持っています。

日本文化に「ファッション性」を感じる海外ユーザーに向けた商品としては、十分に成立するテーマです。

一方で、ここで述べているのは、日本文化をテーマにしたデザインを否定するものではありません。

むしろ、文脈や解釈が丁寧であれば、日本文化をテーマにしたキーキャップは非常に魅力的なものになり得ます。

個人的に解釈が非常にうまいと感じたのは、KBDfansから販売されている「PBTfans KABUKI・CHO R2」です。

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PBTfans KABUKI・CHO R2
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画像参照:PBTfans KABUKI・CHO R2

このキーキャップテーマは東京にある歌舞伎町という歓楽街のきらびやかなネオンのイメージをそのままに、キーキャップデザインに昇華している点は非常に秀逸だと評価しています。

つまり、日本文化モチーフを使うこと自体は問題ではなく、それをそのまま「日本市場向け」と考えてしまうことは少し強引かもしれません。

日本文化をテーマにした商品と、日本のユーザーに向けて設計された商品は、同じではありません。

前者はグローバル向けの“Japan-inspired product”であり、後者は日本市場の使い方や感覚に合わせて設計された、より実用的なローカライズ製品だといえるでしょう。

この2つを分けて考えることが、日本市場に参入しようと検討している海外ブランドにとって重要です。


海外ブランドに伝えたいこと

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日本のユーザーは、「日本文化を外からみたもの」を進んで好むわけではありません。

自宅のデスク空間に自然に馴染むかどうかを重視しています。

そのため、日本市場向けの商品企画では、「日本っぽく見えるか」よりも、「日本のユーザーが自然に使えるか」が重要になります。

これは、キーキャップでもキーボード本体でも同じです。


まとめ

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海外から見ると、日本語の文字、桜、侍、忍者、富士山、東京、アニメ、ゲームといった要素は、わかりやすい「日本らしさ」として機能します。

それらを取り入れた“Japanese-inspired”なキーボードやキーキャップは、グローバル市場では魅力的なテーマになり得るということは十分理解できます。

しかし、それは必ずしも日本市場向けの商品であることを意味しません。

少なくとも、「Japanese-inspired」であることだけが、日本市場での訴求力になるとは限りません。

日本文化をモチーフにすることは、決して悪いことではありません。

海外ブランドが日本市場を考えるうえで、まず必要なのは「Japanese-inspired」の商品が必ずしも日本市場で受け入れられるわけではないと気付くことだと考えています。

Greenkeysの運営者である河村亮介が代表を務めるGreenEchoes Studioでは、海外キーボードブランド向けに、日本市場での製品訴求や配列対応、キーキャップキット構成に関する相談を受け付けています。

本記事は営業資料ではなく、Greenkeysとしての市場観をまとめたコラムです。

日本市場向けの商品企画やローカライズに関心のあるブランドは、必要に応じてGreenEchoes Studioの相談ページをご確認ください。

Consultation for keyboard brands entering the Japanese market

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河村 亮介のアバター 河村 亮介 Greenkeys chief editor

日本のキーボード専門メディア「Greenkeys」の編集長です。
メカニカルキーボード、自作キーボード、入力デバイスに関するレビュー・取材・検証・撮影・計測・執筆を一貫して担当しています。
これまで100製品以上のキーボードや入力デバイスをレビューし、日本語配列キーボードの互換性問題に関する情報整理と市場解説を行っています。
また、日本語配列キーボードの互換性標準化を目的とした業界連携プロジェクト Japan Layout Alliance(JLA) を設立し、国内外メーカーと協力した活動を進めています。
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