30%キーボードという世界を覗く|自分にとっての使いやすい道具を求めて

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コラム
この記事の位置づけ
本記事は、キーボード市場や製品動向についての筆者見解を含むコラム記事です。事実関係の確認に努めつつ、分析や評価には筆者の視点が含まれます。レビューやニュースとは異なる、意見性のあるコンテンツとしてご覧ください。

Greenkeysでたびたび紹介している「スモールキーボード」の世界。

Greenkeysとしては、左右分割30%キーボード「Gravity36」をリリースしており、私自身にとってもスモールキーボードは特に好きなジャンルです。

最近では、Keychron Orca echoの登場によって、スモールキーボードという世界に改めて注目が集まっているように感じます。

Orca echoは本稿の分類では40%キーボードに当たりますが、さらにキー数を減らしたものが、ここで扱う30%キーボードです。

30%キーボードは、一般的なキーボードと比べれば明らかに不便です。

数字行はなく、見えている修飾キーも少ない。入力に必要なキーの多くをレイヤーやコンボへ移し、自分で操作を覚える必要があります。

それでも、「このキーボードを使えるようになりたい」と思えるほど魅力的な製品があります。

使いやすいから選んだのではなく、魅力的だから使いこなそうとした。
その結果、いつの間にか自分にとって使いやすい道具になっていた。

30%キーボードは、そんな不思議な魅力を持つ存在です。

30%キーボードは、「便利さだけが道具を選ぶ基準ではない」ということを私たちに教えてくれる存在なのかもしれません。

Kawamura top RKawamura

この記事を書くきっかけになったのがtakashiさんの投稿です。
彼は「miniDivide」、「Palmslave」や「Palmbrain」といった魅力的な30%キーボードを設計するクリエイターです。
Gravityシリーズは、彼の手によって設計されています。

takashicompany|BOOTH

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この記事で扱う「30%キーボード」とは

30%キーボードには、さまざまな配列があり、キー数だけで明確に区切れる統一された定義があるわけではありません。

そこで本稿では、4行構成のキーボードのうち、ホームポジションに人差し指から小指までを置いた際、小指の外側にキーが配置されていないものを「30%キーボード」として扱います。

こちらの図をご覧ください。

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おおまかにいえば、左右それぞれの主要なキー領域が5列×4行に収まる配列です。

親指キー、人差し指側に置かれた中央キー、ロータリーエンコーダーなどの有無は、この定義には含めません。

Kawamura top RKawamura

片手5列のレイアウト、つまり人差し指を起点にホームポジションを取った際に、小指の外側にキー列がないものを指します。

キーボードを小さくしたくなる理由

これはあくまで個人的な実感ですが、キーボードに深く触れるようになると、「もっと小さくしたい」と考える人は少なくありません。

日本では、限られたデスクスペースでマウス操作の余白を確保したい、外出先にも自宅に近いタイピング環境を持ち出したい、といった事情がその後押しになりやすいように感じます。

使っていないキーを減らし、キーボードの横幅を縮める。マウスをより近くへ置き、机の上を広く使う。

小型化には、見た目だけではない実用的な理由があります。

そんな考えを持っている人は、キーレイアウトも小さくしたくなります。

100%から96%へ。そこから80%、75%、65%、60%へ。

さらに、出先でも自宅に近いタイピング環境を使いたいと考えるようになると、持ち運びやすさも重要になります。

既製品の60%付近まで小さくしても、まだ小さくしたい。

さらに小さな配列を求めると、40%以下のキーボードが豊富な自作キーボードの世界へ足を踏み入れることになります。

この道筋では、30%キーボードはサイズダウンの終着点とも言えそうです。

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もっとディープな20%の世界もありますが、多くの方のスモールキーボード探しの終着点はおそらくは30%だと思います。

40%キーボードで使っていた小指側の1列を手放し、その役割をレイヤー、コンボ、タップと長押しの使い分けなどへ移していく。

すでに小さなキーボードを使ってきた人が、さらにコンパクトさを追求した先に30%があります。

もう一つの「30%キーボード」の入口

一方で、最近の30%キーボードには、これまでとは違う入口が生まれています。

少しずつキーを減らした末にたどり着くのではありません。

圧倒的に魅力的なデザインを見て、「これを使いたい」と思った結果、最初のスモールキーボードが30%になるルートです。

近年注目を集めている「DRESSTHING」「moNa2」「conductor」は、その象徴的な存在といえるでしょう。

DRESSTHING|iPad miniと一緒に持ち歩きたくなる30%

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画像参照:https://imdression.online/products/dressthing

DRESSTHINGは、iPad miniと組み合わせるために設計された35キー+ロータリーエンコーダーの自作キーボードです。

一体型、折畳型、分割型という3つのスタイルから選んで組み立てられます。

また、スイッチプレートを入れ替えることで、ノーマルプロファイルとロープロファイルスイッチのいずれかにも対応可能となっています。

特に折畳型は、キーボードを単に小さくするだけでなく、「iPad miniと一緒に持ち歩く姿」まで含めてデザインされています。

数字行がないことよりも、この姿で使いたいという気持ちが先に立つ。

DRESSTHINGは、30%キーボードを機能の引き算ではなく、所有したくなるプロダクトとして見せてくれる存在です。

最近では、左右間接続も無線化できるキットのリリースに加えて、3Dプリントケース版も準備しているようです。

DRESSTHING公式販売ページ

moNa2|17mmピッチ・完全無線・トラックボールを詰め込んだオールインワンデバイス

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画像参照:https://booth.pm/ja/items/6376654

moNa2は、sayu氏とshakupan氏が開発した、42キーの完全無線分割キーボードです。

ロープロファイル、17mmキーピッチ、右手側の25mmトラックボール、ロータリーエンコーダー、背面マグネットなどを備えています。

マイコン付近の中央キーを含むため総キー数は42キーですが、ホームポジションから見た小指の外側にはキー列がありません。

本稿では、親指キーや人差し指側の中央キーを除いた主要キー領域を基準として、30%キーボードに含めています。

一般的な19.05mmより狭い17mmピッチを採用している点も注目したい部分でしょう。

キー数を減らすだけでなく、一つひとつのキーの間隔まで狭めることで、さらに小さな入力環境を作っています。

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通常ピッチと比較すると、狭ピッチ化はかなり小型化に貢献しています。
中央部付近を含めると、単純計算で横12.3mm、縦8.2mmの小型化が可能となります。

2026年8月には、moNa2などへ向けた17mmピッチの射出成形キーキャップも試作しています。

moNa2公式販売ページ

conductor|使う姿そのものをデザインした入力デバイス

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画像参照:https://plotoftheprototype.com/products/monokey

conductorは、親指トラックボールを備えたオーソリニアレイアウトを採用した40キーの完全無線分割キーボードです。

17mmピッチの格子配列を採用し、左右へ手を広げた姿勢で操作できます。

conductor向けには、オリジナルのPBT製17mmピッチキーキャップ「notra」も開発されました。

通常より狭いキーピッチを採用すると、一般的なキーキャップをそのまま使いにくくなります。

その制約に対して、専用キーキャップを作ることで応えている点は、プロダクトにかける熱量の大きさを表していると言えるでしょう。

商品の立ち位置としは「プロトタイプ」となっており、工場で製作される製品版の登場が待たれています。

conductor公式販売ページ

入り口による「スイッチングコスト」の違い

このように、最近では「使いたいと思わせるような魅力的な30%キーボード」が登場した影響で、従来の「徐々に小さくしてきた」というような「かつてのスモールキーボード入門ルート」以外のルートが登場してきています。

筆者のように、40%キーボードから30%へ移行する場合、小指側の1列を失います。

そこにShift、Ctrl、Tab、Enterなどを割り当てていた場合、作り込んだキーマップを見直さなければいけません。

キーが減ること自体よりも、すでに身についた操作を変更することの方が、大きな負担になる場合があります。

これがいわゆる「スイッチングコスト」です。

本稿で扱う30%キーボードと40%キーボードを分ける大きな違いは、小指側の外側にキー列があるかどうかです。


一方、デザインに惹かれて最初から30%を選んだ人には、40%から30%へ移るための「慣れ直し」がありません。

もちろん、一般的なキーボードから30%へ移行する学習コストはあります。

数字や記号の位置を覚え、レイヤーを使い、自分に合ったキーマップを作る必要があるという点では、スイッチングコスト自体は発生します。

しかし、「以前は小指側にあったキーを失った」という感覚はありません。

最初から見えているキーを前提として、自分の操作体系を作り始められます。

不便さの総量が少ないわけではありません。

過去の配列との差分を意識せずに、30%キーボードの操作体系を組み立てていける可能性があります。

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ようやくこのコラムで言語化できましたが、徐々に小さくしていくよりも、まったく別の入力デバイスとして30%キーボードを認識した方がわかりやすいように感じます。

使いやすいから選ぶのではなく、使いたいから使いやすくする

一般的な製品選びでは、使いやすいことが重視されやすいと感じています。

直感的に操作できる、やりたいことがボタンひとつで実行できる、これまで慣れ親しんできたキーレイアウトである、など。

スモールキーボードのような「レイヤー思想を理解しないと使いこなせない」というデバイスは、決して「使いやすい道具」とは言い難いです。

Kawamura top RKawamura

「買ってすぐ使える」という部分においては、まったく使えません。

それでも、「このキーボードを使いたい」という気持ちは、人を動かします。

自分がよく使うキーを押しやすい場所へ置く。

何度もキーマップを変更する。

レイヤーを覚え、少しずつ指の動きへ定着させていく。

そうして使い続けるうちに、最初は不便だったキーボードが、自分にとって自然に使える道具へ変わっていきます。

おそらく、moNa2やconductorを選んだ人の多くは、「最初から使いやすいから」購入したわけではないでしょう。

スイッチングコストを上回るほど、そのルックスや思想、使う姿に魅力を感じた。

だからこそ、レイヤーを覚え、キーマップを試し、自分の使い方へ近づけようとする。

そして結果として、いつの間にか自分にとって使いやすい道具になっている。

使いやすさは、製品だけが最初から持っている固定的な性質ではないように思います。

使い手が道具に歩み寄り、道具もキーマップなどの柔軟性を通して使い手に近づいていく。

その間に、自分にとっての使いやすさが作られていきます。

30%キーボードは、製品の魅力が使いにくさを上回り得ることを示す、一つの事例といえるでしょう。

もちろん、そのためには使いにくさを上回るだけの動機が必要です。

  • 気に入ったデザインのキーボードを使いたい
  • 出先にも自分のタイピング環境を持ち歩きたい
  • 鞄へ収まる、究極に小さな入力環境が欲しい
  • 机の上をできるだけ広く使いたい
  • この小さなキーボードを使いこなせるようになりたい
Kawamura top RKawamura

カフェで変わったキーボードを使うことで周囲の視線を集めたい、みたいな不純な動機でも大いに歓迎です笑

こうした思いが十分に強ければ、レイヤーを覚えることも、キーマップを試行錯誤することも、単なる負担ではなくなります。

それは不便への我慢ではなく、自分が使いたい道具へ近づいていく過程になるような気がします。

「売れそうなもの」だけが新しい需要を作るわけではない

30%キーボードの魅力は、既存のニーズに応えるだけでなく、それまで意識されていなかった「欲しい」を生み出すところにもあります。

多くの製品開発では、すでに存在する困りごとや需要に応えることが重視されます。

それは企業活動として自然なことであり、多くの人にとって使いやすい製品を作るうえで欠かせません。

一方で、DRESSTHING、moNa2、conductorのような製品は、スペック表だけでは説明しにくい欲求を呼び起こします。

それまで30%キーボードを探していなかった人が、製品を見たことで初めて「iPad miniと一緒に持ち歩きたい」「トラックボールまで一体化した環境が欲しい」「この美しい道具を使いこなせる人になりたい」と思うことがある。

売れそうな製品が既存の需要に応える一方で、強い魅力を持つ製品は、新しい需要を生み出す可能性があります。

スペック上の便利さだけが、製品を選ぶ理由ではありません。

多少の不便さを受け入れてでも使いたいと思わせることも、製品が持つ大切な価値の一つです。

尖った製品はブランド全体への期待も作る

これはブランドの商品開発にも通じるものがあると思います。

売れるものを作る、というのは、営利を目的とした企業であれば当然の目指すべき道筋です。

一方で、30%キーボードのような「尖った製品」は、ブランド全体への期待も作ります。

販売台数だけでは評価しにくい製品でも、新しいユーザーを市場へ連れてきたり、ブランド全体への関心を高めたりする役割を持ちます。

30%キーボードは、スペックだけで比べれば不利です。

スイッチングコストが大きいという事実は変わりません。

それでも、人を惹きつけるのは、そのプロダクトが持つ魅力的なルックスと同時に、まだ体験したことのない入力体験を提示しているからだと考えています。

ホームポジションを大きく崩さずに文字や記号、ショートカットを入力する体験は、私たちが当たり前だと思ってきた「キーボードでの入力」の別のあり方を示しています。

30%キーボードへの興味

以上、30%キーボードについてのコラムでした。

私たちの生活には、より速く、より正確で、より手間の少ない代替手段があっても、使い続けられている道具があります。

スマートフォンやPCがあっても、ペンで紙に文字を書く。

電子書籍があっても、紙の本を読む。

正確な時刻をすぐ確認できても、機械式腕時計を身につける。

全自動のコーヒーメーカーがあっても、自分で豆を挽いて湯を注ぐ。

そこには、単純な効率だけでは測れない価値があります。

手間をかけることや、使う過程そのものが、道具を選ぶ理由になっています。

30%キーボードも、同じような存在なのかもしれません。

最初から誰にとっても便利なものではありません。

しかし、「これを使いたい」という気持ちがあれば、人は自分の使い方に合わせてキーマップを工夫し、少しずつ道具との距離を縮めていきます。

その結果、スペックだけを見れば不便に見えたキーボードが、自分にとっては手放しにくい、使いやすい道具になっていく。

人は、スペック上の便利さだけで道具を選ぶわけではありません。

30%キーボードは、その当たり前のようで忘れがちなことを、改めて気づかせてくれる存在です。

いいですよ、ちっちゃいキーボードも。

30%キーボードについての感想募集中!

ここまで読んで、30%キーボードについてどのように感じましたか?

「興味がある」「使ってみたい」という声も、製品を作る側にとっては大切なシグナルです。

今の気持ちに最も近いものを、ぜひ教えてください。

回答結果は、今後のGreenkeysでの記事制作や、30%キーボードの潜在的なニーズをメーカー・制作者へ伝える際の参考にします。

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あなたの回答、お待ちしています。


  • 初回公開日
  • 最終更新日
  • 取材方法:制作者による公開情報・公式販売ページ・公式SNS投稿参照
  • 参照・引用元takashicompanyさんの投稿DRESSTHINGmoNa2conductor1U猫キー屋
  • 利益相反:本記事で紹介した製品について、記事作成時点で金銭・製品提供等の利益相反はありません。
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河村 亮介のアバター 河村 亮介 Greenkeys chief editor

日本のキーボード専門メディア「Greenkeys」編集長。GreenEchoes Studio代表。

メカニカルキーボード、自作キーボード、入力デバイスに関するレビュー・取材・検証・撮影・執筆を担当しています。これまで100製品以上をレビューし、日本語配列キーボードの互換性問題や国内市場動向についても継続的に情報発信しています。

日本語配列キーボードの互換性向上を目的とした業界連携プロジェクト「Japan Layout Alliance(JLA)」を設立し、国内外メーカーと協力した活動も行っています。

Greenkeysでは編集の独立性と透明性を重視し、提供品・広告・アフィリエイトの有無を記事内で明示しています。取材・執筆・製品監修・日本市場向けの情報設計に関するご相談も受け付けています。

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